1.ゾンビタバコ とは

近年、日本でも指定薬物エトミデートの乱用が問題視されている。電子タバコ(VAPE) を用いた摂取形態 (図 1) は「ゾンビタバコ」とも呼ばれ、社会的関心を集めつつある。アジア各国で先行して報告されてきたが、日本でも無視できない状況となりつつある。 「ゾンビタバコ」とは、使用者が無気力で反応の乏しい“ゾンビ様”の状態を呈することに由来する呼称であり、その実態は静脈麻酔薬エトミデートの吸引による不適切な使用である。エトミデートは 1960 年代に開発された非バルビツール酸系麻酔薬で、海外では全身麻酔の導入や鎮静に用いられるが、日本では未承認であり、指定薬物として製造・販売・授与・所持・使用等が規制されている。

 

2.乱用の問題点
 問題は、エトミデートを電子タバコのリキッドに混入して吸引する点にある。電子タバコは液体を加熱して蒸気を吸引する機器で、加熱式タバコとは仕組みが異なる (表 1)。ニコチンを含まない製品が多く流通しており、10 代の若者でも比較的入手しやすい上、リキッドに任意の物質を溶解できるため薬物混入の温床となり得る。外見上も通常の喫煙と区別しにくい。エトミデートはGABAA 受容体を介して中枢神経を抑制し、短時間で意識消失を引き起こし麻酔様の状態となる。吸入では作用発現が速く、意識混濁や歩行のふらつきなどが生じ、重篤な場合は痙攣や意識障害に至る。転倒や交通事故などの二次被害の危険性も高い。さらに持続時間が短く反復使用を招きやすく、副腎機能抑制など内分泌系への影響も懸念される。

 

3.今後の対応
 こうした作用は単なる酩酊とは異なり、麻酔薬としての作用に由来する重篤な健康影響を伴う。現時点で日本の流行は限定的だが、電子タバコの普及により乱用の拡大が懸念される。今後は流通実態の把握と監視強化に加え、若年層への啓発を含む総合的対策が求められる。

一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議 理事 加藤 英明 (湘南医療大学薬学部教授)