あらたに設定された指定濫用防止医薬品について
| 「オーバードーズ」という言葉を耳にする機会が増えました。市販薬を大量に服用する行為は若年層を中心に広がっており、医薬品を取り扱う専門家にとって看過できない課題です。令和8年5月1日施行の改正薬機法で、この問題に対応する「指定濫用防止医薬品」の販売に関する制度が設けられました。 |
1 制度創設の背景
咳止め薬や総合感冒薬など、薬局で購入できる一般用医薬品の大量服用が、若年層を中心に社会問題となっています。厚生労働省は令和7年5月14日に成立した改正薬機法で、「指定濫用防止医薬品」を法律上の制度として新設しました。従来「濫用等のおそれのある医薬品」として告示・省令で運用してきた仕組みを、法律に基づく制度へ格上げしたものです。
図1 制度の位置づけ(従来制度からの格上げ)
| これまで
濫用等のおそれのある医薬品 (厚生労働省告示・省令に基づく行政上の運用/罰則等の裏付けが弱い) |
→ | 令和8年5月1日~
指定濫用防止医薬品 (薬機法第36条の11に基づく法律上の制度/販売時の義務を明文化) |
2 指定濫用防止医薬品とは
指定濫用防止医薬品とは、薬機法第36条の11に基づき、依存性や乱用のおそれがあるとして厚生労働大臣が指定する一般用医薬品です。エフェドリンやコデインなど中枢神経に作用しやすい成分を含む製剤が対象で、通常より厳格な販売対応が求められます。施行日は令和8年5月1日です。
3 対象となる8成分
対象成分は、既存6成分(エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、プソイドエフェドリン、ブロモバレリル尿素、メチルエフェドリン)に、今回新たにデキストロメトルファンとジフェンヒドラミンが加わり、合計8成分です(表1)。これらの成分は、総合感冒薬や鎮咳去痰薬など日常的に使用される製品に広く配合されています。
表1 指定濫用防止医薬品の対象8成分
| 成分名 | 区分 | 代表的な配合製品例 |
| エフェドリン | 既存 | 総合感冒薬 |
| コデイン | 既存 | 鎮咳去痰薬 |
| ジヒドロコデイン | 既存 | 鎮咳去痰薬 |
| プソイドエフェドリン | 既存 | 鼻炎用内服薬 |
| ブロモバレリル尿素 | 既存 | 催眠鎮静薬・鎮痛薬 |
| メチルエフェドリン | 既存 | 総合感冒薬 |
| デキストロメトルファン | 新規 | 鎮咳去痰薬 |
| ジフェンヒドラミン | 新規 | 催眠鎮静薬・かぜ薬・鼻炎用内服薬 |
4 販売時に求められる対応
薬局・店舗販売業者には、購入者の年齢・他剤の使用状況・購入譲受け状況の確認、大容量品や複数個購入時の理由確認、濫用時の危害を書面で説明し理解を得ることなどが、薬機法および同法施行規則に基づく遵守事項として義務付けられます(図2)。18歳未満は氏名確認や身分証提示も必要です。
図2 販売時の対応フロー
| 1
来店・声かけ 購入者の様子を確認 |
2
年齢・目的確認 18歳未満は身分証提示を依頼 |
3
数量確認 小容量1個まで/大容量・複数個は原則不可 |
4
リスク説明 濫用の危険性を説明し理解を確認 |
| 5
販売可否の判断 必要に応じ、販売を見合わせる、または他の専門職・医療機関への相談を促す |
|||
| 陳列方法のポイント:①鍵付き設備での保管、②購入者が直接手に取れない陳列、③薬剤師等が概ね7m以内で目視できる範囲への陳列 ―― いずれかの対応が必要です。 |
販売者側が手順を守るだけでなく、購入者にもその趣旨を理解していただくことが欠かせません。このような対応により業務の負担は増えますが、若年者が安易に大量の医薬品を入手できないようにするためにより有効な販売方法といえます。
5 オーバードーズを防ぐ「ゲートキーパー」としての薬剤師
指定濫用防止医薬品制度は、令和7年薬機法等改正における医薬品の品質・安全性確保強化の一環です。単なる販売制限ではなく、薬剤師を乱用の兆候に気づき声をかける「ゲートキーパー」として位置づけた点に本質があります。
| オーバードーズの背景には孤独感や心身の不調など、販売制限だけでは解決できない事情も少なくありません。頭ごなしに拒否せず、対話でリスクを伝え、必要に応じて医療機関や相談窓口へつなぐ姿勢が求められます。 |
参考資料
- 厚生労働省「一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について(薬剤師、登録販売者の方へ)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/index_00033.html
- 厚生労働省 医薬品等安全対策部会 資料「指定濫用防止医薬品の指定について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001638681.pdf
- 東京都保健医療局「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の改正について(令和8年5月1日施行・医薬品販売業関係)」 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/anzen/iyaku/sonota/r8kaisei
- 厚生労働省医薬局長通知「医薬発1226第16号」(令和7年12月26日、指定濫用防止医薬品の販売等に関する留意事項) https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001628299.pdf
- 厚生労働省「令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58083.html
医薬品適正使用・乱用防止推進会議
副代表理事 小島尚
査読者:宮澤 眞紀