「薬剤師が自宅に来てくれるなんて知らなかった」――。薬局薬剤師である私が在宅医療に関わり始めて10年、今もなお多くの方からいただく言葉だ。普段、皆さんが目にする薬剤師は薬局のカウンターの中にいる姿だろう。しかし今、私たちは薬局を飛び出し、患者の「生活の場」へと一歩踏み出している。
- 2025年から2040年へ:高まる在宅医療の「質」へのニーズ
国が進めてきた地域包括ケアシステムは、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けるための仕組みだ(図1)1)。この構築目標である2025年を過ぎ、社会はさらに厳しい「2040年問題」2)へと直面している。3人に1人が65歳以上の高齢者となり、現役世代が急減する中、認知症の方は4人に1人にまで増えると予測されている3)。がんを抱えながら認知症の家族を介護する、あるいは本人も認知症を患うといった複雑な状況が増えるこれからの時代、在宅医療には単なる継続性だけでなく、「高度な専門性」と「質の高いケア」が求められている。
- 地域包括ケアシステムを動かす多職種チーム
地域包括ケアシステムは、医師、看護師、薬剤師、介護職、ケアマネジャーといった多職種が、一人の患者のためにチームを結成し、初めて成し遂げられる。かつては「異なる事業所間での情報共有が困難」という課題があったが、現在はICT(情報通信技術)を駆使することで、刻一刻と変わる患者の状態をチーム全体で共有し、迅速に対応できる体制が整ってきている。
- チームの一員としての薬剤師
薬剤師は、お薬を届けるだけではない。お薬のセットや内服状況の確認に加え、副作用や痛み、バイタルサインのチェックまで細やかに行う。また、緩和領域では、介護者は「第2の患者」とも呼ばれ、家族ケアも大切な業務の1つである。介護者が倒れてしまえば在宅生活の継続は困難だからだ。私たちは、身体の痛みだけでなく、将来への不安や家族の葛藤といった「全人的苦痛(total pain)(”解説コーナー〜2〜”参照)」を傾聴する。お薬をセットしながら交わす何気ない会話の中に、患者・家族の「本当の想い」が隠れていることがあるからだ。在宅医療は、「どう生きたいか」を軸に治療を再構築し、患者と家族が望む日々を過ごし、納得した最期を迎えるための時間を守り抜くことだ。一人で抱え込まず、あなたの街の薬剤師を頼ってほしい。私たち薬局薬剤師は、今日もチームのバトンを手に、皆さんの笑顔のために街を走っている。
参考文献
- 厚生労働省;
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html (閲覧 2026-07-26)
2) 厚生労働省; https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/19/dl/1-01.pdf (閲覧 2026-07-26)
3) 厚生労働省; https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf (閲覧 2026-07-26)
一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議 理事
大野 朋子(株式会社akホールディングス 上永谷薬局)
査読者 加賀谷 肇