一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議の設立に当たって

代表理事 鈴木 勉

オピオイド鎮痛薬の多くは医療用麻薬として規制されていることもあり、日本におけるオピオイド鎮痛薬、特に医療用麻薬の使用量は先進諸国の中で最も少ない状況にあります。これを裏付けるように、世界保健機関(WHO)の報告では日本の医療用麻薬の治療上必要量に対する使用量の比率が15.54%と先進諸国の中で最も少ない。このことは日本で痛みを我慢している患者さんが大変多いことを示しています。

依存性薬物の多くは麻薬や向精神薬として「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されています。その代表的なものがオピオイド鎮痛薬やベンゾジアゼピン誘導体などの鎮静催眠薬です。オピオイド鎮痛薬は主にがん疼痛治療に用いられていますが、最近慢性疼痛治療にも一部用いられるようになっています。麻薬には医療上の有効性と安全性が証明されて厚生労働省がその製造販売を承認している医療用麻薬と有効性も安全性も分からない大変危険な不正麻薬があります。しかし、医療用麻薬に対しても不正麻薬と同様の恐怖を持つがん患者さんが医療用麻薬で治療すべき痛みを我慢している不幸なケースも多々あります。

一方、国際麻薬統制委員会(INCB)の2016年の報告によると、日本の総鎮静催眠薬、ベンゾジアゼピン系薬物の使用量が共に、先進諸国の中で最も多いことが分かります。そして、国立精神神経研究センターの調査によると、日本で乱用されている薬物は、覚せい剤に次いで鎮静睡眠薬が多いことが知られていますが、オピオイド鎮痛薬の乱用はほとんど問題になっていないことも示されています。ところが、米国では逆にオピオイド危機と呼ばれ、オピオイド鎮痛薬の乱用が大変大きな社会問題になっていますが、鎮静薬・睡眠薬の乱用はそれほど問題になっていません。

このような背景から、一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議は脳(中枢神経系)に作用して依存性を引き起こす医薬品、特にオピオイド鎮痛薬、鎮咳薬、睡眠薬などの適正使用と乱用防止を啓発することを大きな目的にして活動する組織として設立しました。また、医薬品の適正使用を推進することが、最大の乱用防止対策でもあることから、当法人は「Know Pain, No Pain.」「Know Sleep, No Sleeplessness.」を啓発して適正使用を推進して参ります。そして、医薬品が患者さんに正しく使用されて治療に結びつき、医薬品の誤用、流用や乱用がなされない社会を作るための活動を行って参ります。