東京薬科大学 薬学部 社会薬学研究室 教授 北垣 邦彦 先生
対談担当者:小島 尚(一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議 副代表理事)
北垣邦彦先生のご略歴
薬剤師、薬学博士
平成3年4月より平成17年6月まで、主に喘息・アレルギーの研究に従事。
平成17年7月より平成19年3月まで、独立行政法人医薬品医療機器総合機構にて新薬の審査に従事。
平成19年4月より平成27年6月まで、文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課にて健康教育調査官として従事。
平成27年7月より現職(東京薬科大学薬学部社会薬学研究室、教授)
≪著書等≫
●学校環境衛生管理マニュアル~「学校環境衛生基準」の理論と実践~[平成30 年度改訂版](文部科学省、平成30年)
●危険ドラッグ問題の表と裏~学生に知ってほしいこれからの薬物乱用防止について~(株式会社薬事日報社、平成28年)
●新訂版学校保健実務必携<第4次改訂版>(株式会社第一法規、平成29年)
●学校における水泳プールの保健衛生管理 平成28年度改訂版(公益財団法人日本学校保健会、平成29年)
●学校保健の動向(平成21年度、22年度、23年度、25年度、27年度、平成28年度、平成29年度版)(公益財団法人日本学校保健会)
●学校薬剤師支援資料(DVD)学校薬剤師の役割と責任~学校薬剤師の活動を知ろう~(公益財団法人日本学校保健会、平成28年)
『シリーズ:オピニオン・リーダーとの「対談」』
第7回の対談は、薬物乱用防止及び医薬品の適正使用に関する教育について東京薬科大学社会薬学研究室教授北垣邦彦先生に伺います。先生は文部科学省で健康教育調査官として学校における環境衛生管理や薬物乱用防止及び医薬品の適正使用に関する教育などの保健教育を担当されていらっしゃいました。それらのご経験から、教育として求められること、また、社会ニーズとの調和など多面的な視点から幅広くお話を伺いたいと思います。
~Question1~
小島)
医薬品に関連した教育の全体の概要について
北垣)
1.1 医薬品に関連した教育の全体の概要について
医薬品に関連した教育を健康教育として捉えると、その教育目標は、生涯を通じて自らの健康について理解を深め、課題を見つけ適切に管理し、改善していくための資質や能力を育成することです。その目標達成に向けて学校においては小学校であれば体育科、中学校及び高等学校では保健体育科の授業中心的な役割を担っています。また、健康に関する指導は、体育・保健体育科だけでなく、家庭科(技術・家庭科)や特別活動はもとより、他の教科、道徳科及び総合的な学習の時間などを活用し、学校の教育活動全体を通じて行うことになっています。
医薬品の適正使用に関する内容は、中学校及び高等学校の保健体育科の授業で取り扱われます。また、医薬品に関連した内容としては、小学校段階から薬物乱用防止に関する内容、また中学校や高等学校においてはアンチドーピングについても学ぶことになります。学校における健康教育では、これまでも感染症について取り扱ってきておりその中で予防接種の大切さを学ぶ機会もあり、新たにがん教育も充実強化されてきているので、その中で医薬品の役割なども取り上げられるようになるかもしれません。
学校における薬物乱用防止に関する指導については、体育・保健体育科の授業以外にも特別活動や総合的な学習の時間などを活用して中学校や高等学校では年1回は警察職員や学校薬剤師等の専門家を講師とする「薬物乱用防止教室」を開催することになっています。これは小学校においても地域の実情に応じて開催することが求められています。
1.2 医薬品に関連した教育の現状について
学校における健康教育は、子どもの発達段階に応じてその教育内容を広げ、深めていくスパイラル教育です。健康教育の視点としては、小学校段階では身近な生活行動等から自らの健康に関わる課題を見つけ、改善できるようにすることです。中学校段階ではそれを科学的に捉えられるようにし、高等学校段階ではさらにそれを社会的に捉えるようにしていきます。
各学校種に応じて学ぶ内容は、学習指導要領に示されています。例えば、平成29年3月に改正された中学校学習指導要領では、保健体育科の保健分野では、大きく分けて「疾病の予防」「心の健康」「傷害の防止」「健康と環境」について学ぶことになっています。それぞれの大きな項目は、さらに細かな項目に分けられています。我が国では学習指導要領に添って民間の出版社が自由な発想の基に教科書を作成しています。学校における健康教育の具体的な内容については、是非一度、小学校の体育科、中学校、高等学校の保健体育科の教科書を見ていただきたいです。特に、高等学校の教科書は薬学部の学生に全て読んでほしいくらいです。
学校における健康教育の中核である体育・保健体育科の授業は、教科書に沿って体系的に学ぶようになっており、教員は子どもの発達段階に応じた対応ができる教育の専門家です。一方、健康問題は専門性が高く、課題の変化が早いことから、教科書が現代的な課題に追いつかず外部専門家の活用が有効な場合もあります。その代表例が、先にお話しした「薬物乱用防止教室」です。
~Question2~
小島)
医薬品を適正に使用する為の教育(くすり教育)について
ここからは医薬品を適正に使用する為の教育「くすり教育」における位置や目標、また、薬剤師及び薬学関係を含め、教育における配慮事項及び留意点などについて伺います。
北垣)
2.1 医薬品の適正使用に関する教育の現在の位置づけ平成20年の学習指導要領の改訂により中学校の保健体育科で取り扱うことになりました。
平成17年の文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会において、子どもたちが生涯にわたって身に付けておくべき力とは何かが協議され、その一つとして、国民全体が生涯を通じて医薬品が適正に使用できるようなるために医薬品を適正に使用できる子どもの育成が必要であると結論づけられました。この考え方が、平成20年の中学校学習指導要領の改訂に反映されたと考えています。この改訂により、これまで高等学校で学んできた内容が、義務教育である中学校に移行しました。
中学校における医薬品の適正使用の内容は、医薬品には主作用と副作用があること、医薬品には使用回数、使用時間、使用量などの使用法があること、したがって、それを正しく守ることです。上述した発達段階に関連するのですが、子どもにとって医薬品が身近であることは問題がありますが、自分が制御できるルールを守ることは小学校レベルだと考えています。実際医薬品の適正使用に関する内容は小学校から教えるべきであるという意見は平成20年の学習指導要領の改訂前から議論がありました。しかし、現実的には、この内容を小学校に落とすには、小学校における体育科保健領域の時間が極めて少ないことと、医薬品という個別テーマは小学生には難しく感じられ、様々強化等を担当する小学校担任教諭には負担が大きいのでは考えられており、今回の学習指導要領の改訂においても小学校に記載されませんでした。
平成18年の薬事法(現:医薬品医療機器等法)の一部改正により一般用医薬品の販売制度が大きく変わりました。法改正に伴い、法の趣旨を勘案して国民に周知し、その方策の一つとして学校教育の活用が参議院の付帯決議では付けられています。この法改正の背景には、高齢化社会への対応の一つとして政府が進めるセルフメディケーションの推進に向けて国民が医薬品のことについて、もう少し知らないといけない状況であることがあったのだと思います。
基礎的な内容が中学校で学ぶことになったので、高等学校の内容については社会的な内容を加えることになりました。その内容は、現在私が薬学部の学生に、社会薬学として教えている内容と重なる部分が多くあります。例えば、医薬品の種類については、医療用医薬品と一般用医薬品があり、今回の学習指導要領の改訂では医薬品医療機器等法の改正により導入された要指導医薬品が入っています。
OTC医薬品の販売制度について国民が周知しなければならないことから、学ぶことになっています。OTC医薬品の販売制度を理解するためには、リスク分類について理解を深める必要があり、個人的には医薬品の販売制度の理解を通じてリスクへの理解も深まってほしいと願っています。さらに、医薬品のリスク、特に副作用とは何かについて理解を深めるためには承認制度を避けて通れないだろうとの考えのもと、平成21年の学習指導要領から取り上げられています。しかし、この2つに関しては、専門性が高く、難しいと現場では受け止められているようです。
2.2 医薬品の適正使用に関連した教育の推進について
中学校保健体育科の授業で医薬品が取り扱われるように決定されると、医薬品の適正使用推進の専門家である薬剤師の協力を得ることが考えられました。その理想的な形として、薬剤師が学校の保健体育科の先生と一緒に授業する、いわゆるチームティーチングが考えられます。しかし、複数あるクラスに薬剤師が参画してすべてで同じ授業を行うことは、物理的にほとんど不可能です。したがって、薬剤師の協力としては、教育資材提供であるとか、学校の先生は授業案を作るので、その授業案に対してアドバイスをすることがよいと思っています。例えば、添付文書一つ取ったとしても、薬局であれば、簡単に手に入ります。添付文書を教育資材として学校に提供して、記載内容を子どもたちと調べていくなどの使い方の提案ができると思います。
公益財団法人日本学校保健会では、医薬品に関する指導参考資料を作成してホームページで公開し、無料でダウンロードできるものや書籍として販売もしているものもあります(巻末の参考資料のweb情報を参照ください)。ダウンロードできるものの中には、小学生向け、中学生向け、高校生向けのものがあり、またそれらを使って教員が、何をどのように教えるのかのポイントを示した指導参考資料もあります。特に、高校生向け及びその指導者参考資料では、教員が指導する際に難しいと言われている承認制度や販売規制について分かりやすく解説しています。また、アンチドーピングについてもコラムとして触れています。
~Question3~
小島)
薬物乱用防止教育および違法薬物等の教育について
医薬品の乱用や違法薬物の使用などの防止教育が欠かせないと思いますが、現在の薬物乱用防止教育はどのような状況にあるのでしょうか。
北垣)
3.1 薬物乱用防止教育の目標と状況について
学校においては、薬物乱用は喫煙や飲酒と同じように健康を阻害する要因として取り上げられ、その健康影響や法規制について学ぶことになっています。医薬品の適正使用に関する教育でも述べましたが、薬物乱用防止に関する内容も健康教育として小学校保健体育科、中学校・高等学校保健体育科において発達段階に応じた内容を学ぶことになっています。
平成10年の学習指導要領の改訂から小学校の段階で薬物乱用防止に関する内容が入っています。平成10年以前は、小学校の5校に1校程度しか教えていませんでした。平成10年に学習指導要領が改訂され、平成11年の段階で60%に上がっています。このときはまだ教科書に反映されていないのですが、多くの学校が教育内容を先取りした結果だと思われます。平成16年の段階で教科書等も定着をしてきました。現在では、どの学校においても薬物乱用防止に関する教育が行われ、すべての子どもが学んでいると言ってもいいと思っています。一部の学校に関しては、小学校の段階で薬物乱用を教える必要があるのかという抵抗感もあったと思われます。しかし、平成20年辺りで若者の大麻乱用が社会問題化したことも要因の一つかもしれませんが、現在では95%以上の学校が教育を行っています。したがって、薬物乱用に関しては、少なくとも昔から比べれば、現在の子どもは学ぶ機会が確保されていると思っています。
3.2 薬物乱用防止教育の特徴について
現在の学校教育では薬物乱用による健康影響や法規制だけでなく薬物乱用に至る開始要因を重要視しています。大変難しい問題ではありますが、なぜ人は薬物乱用を始めてしまうのかを考えることは大切です。薬物乱用が社会問題化すると、テレビ等において安易な気持ちで快楽を求めてとか、自分に負けてなどの取り上げられ方がされているように感じます。それは開始要因の主要な一つである興味関心に近いのかもしれないですが、それと同じかそれ以上に身近な人からの誘いや同調圧力も重要な要因となります。学習指導要領では、そのような開始要因があることを知識として理解するようになっていますが、その知識を活用できる、つまり、薬物乱用等を誘われたときにキッパリ断るなどの対処ができるようになることが理想です。それには、トレーニングが必要であると考えています。
そのトレーニングがロールプレイ、役割演技法といわれる指導方法です。薬物乱用等に誘われる状況を設定し、断るシナリオを自分で作成し、演じるというものです。いかに人間関係を壊さずに、身近な人の要求を断り、自分の意見を理解してもらえるのかというトレーニングでもあると考えています。一方、薬物の誘いについては、勧める側が反社会的な組織に属している可能性もあり、どんなに論理的に話しても、全く耳を貸さず様々な反論が続くかもしれません。そのような場合には、キッパリ断ることはできず、その場を離れることを勧めています。また、逃げることも勇気ある行動であることを知らせています。
学校における薬物乱用防止教育は、未然防止を目的として行っていますが、何らかの形で薬物に関わりのある児童生徒にとっても有益な内容を取り扱っています。学校は、集団教育だけでなく、保健室における養護教諭やクラス担任等が行う個別指導があります。
3.3 薬物乱用防止教育の留意点について
冒頭にお話ししましたように、現在、中学校や高等学校では特別活動や総合的な学習の時間などを活用して年1回は警察職員や学校薬剤師等の専門家を講師とする「薬物乱用防止教室」を開催することになっています。現在、学校薬剤師等薬剤師は、「薬物乱用防止教室」の講師として小学校に呼ばれる職種としては最も多くなっています。しかし、学校薬剤師が講師として招かれる割合は中学校、高等学校へと校種が上がるにつれて低くなっています。学校における医薬品に関する教育の中心は中学校及び高等学校です。薬物乱用防止の前段でも良いので医薬品の適正使用の大切さを薬剤師から子どもに話すことは重要であると考えています。
3.4. 健康教育への薬剤師の協力体制について
このような体制を整えるためには組織的に行われる必要があります。保健体育の教員や養護の教員と、また、薬剤師が個人のレベルで行うことには限度があります。それには、例えば校長会の場所において学校の理解を得て、薬剤師を呼びたいと思っていただけるようになることが必要です。
その理想的な例の一つとして、東京の小平市があります。元東京薬科大学教授の加藤哲太先生は、小平市の教育委員会、薬剤師会、養護教諭をまとめ上げて薬剤師と学校の連携を確立しています。また、薬物乱用防止に関してですが、山口県、静岡県、大阪市などは県や市単位で連携の取組が進んでいます。
~Question4~
小島)
スポーツと医薬品との適切な関わりについて
薬物乱用防止教育を含めた医薬品適正使用に関する教育のためのお話を頂きました。学習指導要領のお話、学校教育の在り方等について次に、これまで、自分では知っているつもりだった薬に関する教育では学校教育との全体的な関わりから異なる視点を伺うことができました。もう一つはスポーツに関連した薬あるいはアンチドーピングについては如何でしょうか。
北垣)
スポーツと医薬品との関わりについては、ドーピングが大きな課題であり、中・高等学校の保健体育科においても取り扱うことになっています。この問題を学校で取り扱うには、薬剤師が協力することが大切であると思っています。しかし、現実は学校薬剤師と保健体育科の先生のつながりが薄いのでつなぎ役が必要です。国は、その役割を養護教諭が担うことを期待しています。
ドーピングの問題には、薬剤師の視点からすると様々な課題として講義や授業で取り扱えると思います。例えば、ドーピングは、医薬品の目的外使用であり薬物乱用と言えます。また、中学校保健体育科の授業においてもドーピングは健康問題としても触れることになっているので、医薬品の不適正使用による健康被害も取り扱えます。さらに、東京オリンピックが控えているこの時期は、児童生徒にとっても保健体育科の先生にとっても興味関心を引く題材になると思います。
我が国の競技スポーツの裾野の広さは、歴史的に見ても学校の部活動が大きな役割を果たしてきており、今もその状況は変わっていないと思います。スポーツ系の部活動を多くの保健体育科の先生が担当されており、自分たちの指導している生徒が国体に出場したり、将来メジャーリーグに行くかもしれないとなると、ドーピングは避けられない話になってきます。そこで学校薬剤師、薬剤師をうまく活用することは部活動の顧問にとっても、生徒にとっても有益なことであると考えています。
話は変わりますが、現在の地域薬局では、かかりつけ薬剤師制度と言うものが導入されています。かかりつけ薬剤師制度とは、この場合であれば、部活動で将来アスリートになるような子どもたちが、自分専属の薬剤師を少しの顧問料で雇える制度と言えます。薬剤師には、それを売り込まない手はないとお話しさせていただいています。しかし、どんな薬剤師にもできるかというと、薬剤師は多くの若者に接点が少なく難しいと思っています。一方、学校薬剤師であれば、薬物乱用防止教室の講師を学校から依頼されて話しをする機会があるので、その話ができる薬剤師は学校薬剤師しかいないと思っています。今、東京薬科大学では「薬物乱用防止教室」でアンチドーピングと薬物乱用防止や医薬品の適正使用に関して関連付けて薬剤師ならではの情報発信ができるような資料を作成中であり、できたら高等学校で使ってほしいと宣伝しています。
~Question5~
小島)
がん教育における医薬品(薬学、薬剤師等)の関わりについて
がん教育が話題となっていますが、がんの治療では治療薬だけではなく、がんによる痛みに対する疼痛治療も重要です。この教育において薬学との関わり、また、オピオイド系鎮痛薬では薬物乱用防止教育のかかわりなどは如何でしょうか。
北垣)
がん教育に関しては、今回の学習指導要領の中で取り上げられることになりました。一方、がんに関しては喫煙や飲酒による健康影響の大きな問題として生活習慣病として捉えられ、保健医療制度の中でも健診等の大切さは既に学ぶことになっていました。したがって、今後がん教育として何をどのように、また発達段階に応じて指導していくかに注目していきたいと思っています。
学校で指導されるがん教育の中でオピオイド系鎮痛薬が取り扱われるか、また取り扱われるとしてもどのような内容になるかは現段階ではよく分かりません。教科書がどのように取り扱うかが楽しみです。
一方、先ほどから述べているように「薬物乱用防止教室」では薬物乱用に関連して様々な内容を取り扱うことができます。超高齢化社会では、生涯で2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで死亡することになります。その治療として痛みを取ることは極めて重要であることは医療関係者であれば常識だと思います。一方、モルヒネは乱用薬物と多くの国民は認識し、その使用をためらうこともあるようです。薬剤師であれば、この部分に踏み込んでいくことも可能であるような気がしています。しかし、これも繰り返しになりますが、子どもの発達段階を考慮して、何をどのように伝えるかは教育現場の声も大切にしてほしいと思っています。例えば、自分の祖父や祖母ががんになり、疼痛コントロールとしてオピオイド系鎮痛薬を使っていた場合、子どもがおじいちゃん、おばあちゃんが薬物乱用にならないかなと心配することがないように理解させることは難しい課題だと考えます。おそらく、まずオピオイド系鎮痛薬に関する医療関係者の誤解を解き、国民がオピオイド系鎮痛薬のリスクとベネフィットを理解し適切に活用できる状況を作り出すことが先決のように感じます。
私は教育の専門家ではありませんが、教育とは情報の伝達を通じて何かを子どもたちに感じとってもらい、その知識を活用できるようになることだと勝手に思っています。
~Question6~
小島)
今後の健康教育における医薬品に関連した教育で求められること
北垣)
6.1 教育の現場に対して
小学校の体育科、中学校・高等学校の保健体育科における保健の授業をしっかり行っていただきたいと思っています。中学校及び高等学校では学習指導要領に位置付けられているので未履修ということはないと思いたいのですが、薬剤師になろうとして本学に入学してきている学生であっても学んでいないと言っている状況はまだまだ改善の余地があるように思います。
6.2 薬剤師に対して
「薬物乱用防止教室」のところでも述べましたが、薬剤師は小学校だけでなく、もっと中学校、高等学校に行ってほしいです。また、薬剤師ならではの「薬物乱用防止教室」として医薬品の適正使用に関する内容をご自身の経験も踏まえて話をしてほしいと思っています。
6.3 薬学教育に対して
薬科大学・薬学部が2006年に6年制に移行したのは、医療人の育成であり、特に地域で活躍できる薬剤師の育成が重要であると個人的には考えています。例えば、薬物乱用については、日本公衆衛生学会においても取り上げられる、本来、公衆衛生学の重要な要素の一つであるにも関わらず、公衆衛生学会に参加している薬科大学、薬学部が極めて少なく、学部の授業でも多く取り扱われていないのではないかと危惧しています。薬学部のモデルコアカリキュラムでは、「薬学と社会」が重要視されていますので、そちらでも取り扱えるようになってきていると思っています。本学では、私が担当として授業でも取り扱っています。
6.4 当法人等の啓発活動に対して
喫煙、飲酒、薬物乱用防止や医薬品の適正使用に関する情報は、文部科学省、公益財団法人日本学校保健会、厚生労働省や国立精神神経医療研究センターなど教育や医療専門家向けのものが多いような気がします。本法人は、NGOに近いような形で多様な医療関係者、市民を巻き込んでやっていこうとしており、このような活動が広まっていくことを期待しています。
本日はお忙しいところ、長時間にわたり、盛りだくさんのお話を有難うございました。
後記:
北垣先生の教授室でお話を伺いました。当日は学内の喧騒から離れた落ち着いた雰囲気の中、講義に使われたスライドや学校保健会等の冊子や資料を用いて静かに、熱く語ってくださいました。薬剤師および薬学出身者が教育現場でその専門性を生かしてクスリの正しい知識の啓発や薬物乱用防止などに貢献ができることを確信しました。しかし、くすりの専門家であっても教育の専門家ではなく、先生方や児童生徒と一緒に協働して共育に参加連携したいと思います。
参考資料
公益財団法人日本学校保健会が作成した教育資料
1) 医薬品適正使用関連
医薬品と健康(高校生用)
(https://www.gakkohoken.jp/uploads/books/photos/f00037f4d803678c20e2.pdf)
医薬品の正しい使い方(解説書)
(https://www.gakkohoken.jp/uploads/books/photos/d00038d4d803679548ea.pdf)
2)薬物乱用防止等関連書籍
「喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する指導参考資料」高等学校編改訂版
(電子ブック;https://www.gakkohoken.jp/book/ebook/ebook_H230020/#1)