イースタン ネットワーク・オフィス フジノ代表 藤野 彰 先生

対談担当者:鈴木 勉(一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議代表理事)

藤野彰先生のご略歴

1980年に国連に採用(ウィーンに通算25年・その間バンコクに5年赴任)
国際麻薬統制委員会(INCB)事務局次長
国連麻薬・犯罪事務所(UNODC)東アジア・太平洋地域センター代表
UNODC事務局長特別顧問などを歴任
30年ぶりに帰国後、日本学生協会(JNSA)基金理事長を経て、
現在、公益財団法人 麻薬・覚せい剤乱用防止センター理事
内閣府認証特定非営利活動法人 アジアケシ転作支援機構理事
エバーラスティングネイチャー(ELNA)副代表理事
日墺(日本~オーストリア)協会常務理事
イースタン ネットワーク・オフィス フジノ代表

 

藤野先生は現在公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター理事をお務めになられています。また、前国連薬物・犯罪事務所 (UNODC) 事務局長特別顧問、元UNODC東アジア・太平洋地域センター代表、元国際麻薬統制委員会 (INCB) 事務局次長をお務めになられておられました。そのような国際的な視点から、本日は医療用麻薬や向精神薬の適正使用と乱用防止についてご意見を伺いたいと思います。

~Question1~
鈴木)
本日はお越しいただきまして誠に有り難うございます。

まず、最初に国際麻薬統制委員会 (INCB) は医療用麻薬を扱うわれわれにも関係する組織ですがあまり知られておりませんので、組織の概要と役割をご説明いただけますでしょうか?

藤野)
INCBとは
1961年の「麻薬に関する単一条約」によって設立された委員会です。
ご承知のように、INCB自体は厳密に言うと国連の機関ではありません。
この単一条約によって設立されたのであり、条約上、経済社会理事会がINCBの技術的独立性を担保する義務を負っています。それに加え、国連との繋がりでいえば、INCBの事務局は国連事務局の中に置かれています。
なぜ技術的独立性を担保する必要があるかというと、INCBは条約上、「準司法」的な機能を与えられているからです。
準司法的というのは、各国が麻薬の条約に関する規定を遵守しているか否かを監視する役割を担っているということです。
ですから、色々な国が条約をきちんと守っているかを検証し、義務履行を促進しているわけです。

そういう機能を持ちながら、各国が条約の規定を守っているかどうかの監視を、「政府」の代表が行うのでは問題があります。もしも、例えばロシアに義務違反があったとして、アメリカの代表がその事を非難したのでは、政治的な判断だとみなされるでしょう。したがって、「個人の資格」で行動するメンバーによって構成される、独立した委員会である必要があるわけです。
INCBの委員は13人です。10人が政府の提出するリストから選ばれ、3人はWHO提出のリストから選ばれます。その13人の委員は、いったん選出されたら個人の資格で行動し、その出身国あるいは推薦母体であるWHOの意見を代表することはありません。
ただ、事務局は必要ですので、それは国連事務局の中に設けられています。

INCBの役割
具体的には、条約上の義務履行を監視・促進する際に、様々なシステムを運用する役割を持っています。
例えば、日本なら日本の統計をINCBに報告しなければならない。輸出入統計は、四半期ごとに提出され、年次統計では、消費量、他の麻薬に転換した量、在庫量など、非常に複雑な統計を報告するシステムがあるわけです。

更にそれに加えて見積り制度があります。
麻薬を使用する時には、その国で製造するか輸入するかですね。例えば、アヘンなどは日本でもごく少量を生産してはいますが、ほとんどはこれまでインドから輸入しています。
各国は、どの麻薬をどれだけ必要とし、何に使用するのかという見積りを提出しなくてはなりません。INCBは、統計に表れた各国の実績をもとに、見積りを個別に吟味し、必要とあれば、変更を要請することができます。
そしてその麻薬を輸入する時、INCBが承認した見積りを基にした、いわば輸入枠というべきものがないと、輸出国側で輸出できないことになっています。これには非常に複雑な計算が必要です。条約はこのようにして、不法ルートへの横流しを防ぎ、同時に医療用に必要な麻薬を確保しているのです。

麻薬に関する単一条約は、今までの条約をまとめて強化したわけですね。1971年の「向精神薬条約」についても、同様の役割があります。1909年に初めて麻薬規制の世界会議が上海で行われました。
最初の条約が採択されたのは1912年で、それまでは国際的な規制はなかったわけです。
初めて拘束力のある規定ができたのが1925年。輸出入許可制度、統計報告制度などが制定され、それを運用する為に、「常設中央委員会」が設立されました。後に「常設中央アヘン委員会」と改名されましたが。

しかし、輸入許可証等はどんどん偽造されてしまい(すでに組織犯罪の存在がわかります)、当時アヘン系の麻薬はモルヒネに換算して世界の需要が33トン位だったのに対して100トン以上が作られ、3分の2以上が横流しされてしまったんですね。
そのため、1931年に新しい条約が出来て、見積り制度が導入されました。輸入許可証を偽装したとしても、承認された見積りに基づいた輸入枠がなければ、輸出は許可されず、横流しを防ぐことに効果があったのは、さっき述べたとおりです。
それに伴い、見積り制度を運用する機関が必要となり、「麻薬監督機関」が設立されました。
最初の常設中央アヘン委員会と麻薬監督機関が、現在のINCBの前身です。

1980年代のごく初期の頃ですが、悪天候等のためにアヘン系麻薬原料の供給が大幅に不足したことがありました。そこで、伝統的な生産国インドやトルコに対してケシの栽培を増やしてほしいという要請をし、供給はそれ以前のレベルに戻りました。しかし、それまで需要供給はほぼ同じレベルで右肩上がりになっていたのが、何故かそれ以降、需要の上昇が止まってしまいました。
需要上昇が止まってしまうと、今度は過剰在庫になってしまいます。それを削減し、再度アヘン系の麻薬原料の需要供給のバランスを取るという大きな問題が出てきました。国際社会は、その後、長年にわたってこの問題に対処してきました。

現在、アヘン系麻薬原料の需要は、全世界でモルヒネに換算すると200トン位でしょうか。これまで、そのレベルで推移してきています。
需要供給のバランスをとるためにも、先ほど申し上げたINCBの機能が重要な役割を果たします。
医療用に必要な麻薬量を(向精神薬も含めて)確保するとともに、横流しを防ぐため、色々なシステムを駆使した非常に複雑な作業をしています。
ただ、1971年の向精神薬条約では規定が緩やかになっています。
業界からの要請が強く、例えば見積り制度は導入されませんでした。ところが1900年代初頭にあった国際貿易からの麻薬の横流しと同じように、向精神薬の横流しが多く見られました。
見積り制度がなかったので、どの国でどれだけの量が必要なのかが分かっていなかったのです。

輸出国としては「これだけ必要です」と言われなければ現状が分からないので、輸出するほかありませんでした。これは重大な問題でした。そのためINCBは、各国が任意の手段を取るよう勧告を出しました。

見積り制度ほど複雑な計算はしなくとも、それに近い、例えば「わが国では大体これくらい」という数字を出すように、提案をしたのです。政策決定機関である麻薬委員会も同意し、こうして各国の必要量概算を、INCBに任意で提出するというシステムが作られました。それにより、ある国が「年間50キロ必要である」とする時に、その国の会社から例えば150キロの輸出要請があれば、「それはおかしいんじゃないか?」というチェック機能が働くようになりました。
結局は、1961年の麻薬条約も1971年の向精神薬条約もほぼ同じ機能を果たしています。
それをINCBが監視・促進しているのです。

~Question2~
鈴木)
国際的な視点から、日本の医療用麻薬の使用状況についてご意見を頂ければと思います。

藤野)
現在は、疼痛治療のために良い鎮痛剤が多種類製造されていて、必ずしもアヘン系の麻薬を使わなくてはいけないわけではありませんが、あまりに差があるのも(少ないのも)、そこに何らかの問題が内在している場合もあるでしょう。

INCBへのモルヒネ使用報告によると、先進国の中ではデンマークがダントツに多いのですが、カナダ・ポルトガル・ニュージーランド・アイスランド・スウェーデン等の国に比べて、日本の消費量はあまりにも低いですね。
これは「人口千人に対してどれくらい使われているか」と言うデータですので、諸外国と比較することが可能です。一概には言えませんが、日本のモルヒネ使用量は非常に低いと思わざるを得ないです。
なぜかというのは私も疑問に思うところなのですが、友人の医師などに聞くと規制が非常に厳しいので使いづらいと言う話もあります。それは別として、患者さんのために必要と判断される場合は、積極的に用いられるべきだとは考えています。
また別の医師からは、自分が痛みを経験して「こんなに痛いものだ」と改めて使用について考え直した、と聞きました。

鈴木先生もおっしゃっていますが、いわゆる「ダメ。ゼッタイ。」運動でダメといわれたから使いたくない、との考え方も浸透してしまっていると思われます。
しかし、医師が「今の時代はそうじゃないですよ」「今日では、少量投与ですむ、経口の除放剤が用いられることも多く、適正に使用すると問題は起こらないのですよ」ということを伝え、理解してもらわなければいけないでしょう。
きちんと説明すれば患者も家族も理解できると思います。

「ダメ。ゼッタイ。」と言うのは「乱用はダメですよ」ということであって、「適正な」医療用は、増えて然るべきだと思っています。
患者も家族も医師も皆が共通の認識を持てるように、さらに啓発活動が必要でしょう。

鈴木)
「ダメ。ゼッタイ。」活動はかなり均一に行われていているのですが、それに対して適正使用の教育がほとんどなされていないために、歪みが起きてしまっているような感じがしますね。

藤野)
「ダメ。ゼッタイ。」というのは要するに「始めないことが肝心だ」という意味であるともっと伝えなければいけないと感じます。
ライオンズクラブの「薬物乱用防止教育認定講師」養成講座で講演した時のことですが、ある方が「天然の植物由来の麻薬は、化学的に造られたものと違って、大丈夫なような気がするのですけど」と言われたんですね。それを聞いてやはりよくわかってらっしゃらない方もまだまだおられるのだなと思いました。

鈴木)
日本は国際的に見ても統計通り使用量が少ないというのは事実なわけです。
そして、その一部は麻薬指定になっていないオピオイドであるトラマドール等が補っているのではないかという可能性があるということですね。

藤野)
我々にとっては規制の対象になっていないものについては、データが全く入ってこないんですね。
ですから、どれくらい使われているのか、逆に鈴木先生にお伺いしたいです。

鈴木)
非麻薬性オピオイドのトラマドールは徐放剤も発売されて結構使いやすくなっています。もう一つはトラムセットと言うトラマドールとアセトアミノフェンの合剤があります。これは慢性疼痛に使われるのですが、両方合わせるとかなりの量が使用されています。

効力はモルヒネに比べて弱いのですが、ある程度の痛みは緩和します。そして患者は麻薬を使う位なら、これ位痛みが抑えられれば良いということで十分には痛みが取れないまま過ごしている患者はいると思います。

藤野)
日本人、特に年配の方は、我慢強い方が多いので、痛みをこらえたままという辛い状況になりがちなようです。
WHOでは「アスピリンから始まってモルヒネに」という3段階のラダーというのを医師は考えられないのでしょうか。

鈴木)
それはやっていると思います。ただ緩和ケアの先生方は医療用麻薬を十分使っていると言われます。しかし、がん治療医の先生方はまだ十分に使われていないというのが現状だと思います。
その辺が国際的に見た時に、もう少し啓発していかなければいけないと思っています。
さらに、患者やご家族の方にも啓発していかなければいけないと思っています。

~Question3~
鈴木)
同様に、INCBの統計によりますと、鎮静催眠薬とベンゾジアゼピン系薬物の使用量は世界で日本はいずれも2番と大変多量を使用しております。この点に関しまして、ご意見を頂ければと思います。

藤野)
アメリカと日本の比率を見ても、日本では何倍もの使用量があるということが不思議です。
鎮静剤にしても覚醒剤にしても、多すぎても少なすぎても何かおかしいと思われます。

私は国内での鎮静剤や催眠薬の使用の実態を必ずしもよく理解しているとは限りませんが、逆の例としては、リタリン(メチルフェニデート)などがあります。20年位前に販売開始されたと思いますけれど、当時アメリカで大問題になりました。アメリカの使用量はダントツで多かったのですね。その時にアメリカの連邦政府の麻薬取締局が主導して色々調べました。テレビ番組にもなったくらいです。何があったかというと、製造した製薬会社が医薬品局の規制を検討する委員会にお金を出していたのです。そもそも倫理的におかしいじゃないかという問題になったのです。

メチルフェニデートがADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療に有効なのはわかっていますが、問題は本当にそうであるか微妙な患者に、どんどん処方してしまう医者が非常に多かったのですね。

アメリカは医学が進歩しているので他の国より使用量が多いのだ、という意見もありました。その一方で、その為に横流しの事例も増えてしまったわけですね。
日本の場合は横流しがあったかどうかは定かではありませんが、一般的な話として、あまりに他の国に比べて多すぎる、あるいは少なすぎる、という状況には疑問が出てきます。

鈴木)
日本では何の規制もないと90日処方まで可能です。それが、向精神薬に指定されれば30日処方になりますので、その辺も各国の使用量に影響するのではないかと思います。
例えば、エチゾラムは2016年まで向精神薬に指定されていませんでした。ところが、2015年のWHO ECDDミーティングで規制薬物の議題に上がりました。
エチゾラムは日本の吉富製薬が開発した優れた薬ですが、世界的にみるとイタリア、インド、韓国と日本の4カ国で使用されています。しかし、日本で乱用問題が出てきたことから、向精神薬3種として指定したわけです。

藤野)
使用量が多くなったことによって世界で2番目になりましたよね。そのことによって弊害というか一旦処方されたものが横流しされたり売られてしまったりというようなケースもあるのですか?

鈴木)
それはあまりないと思います。

藤野)
メチルフェニデートに関してはありましたよね。

鈴木)
メチルフェニデートに関しては日本でも乱用問題が出てきて規制強化、すなわち処方医を限定しました。
e-learningを受けて、試験に合格した医師しか処方できないというシステムを導入してかなりおさまったという印象はあります。

藤野)
具体的な問題が発生しているかどうかによりますけれども、横流しは特に大きな問題になり得ます。
その場合は、患者に対してオーバー処方したことが原因になるのでしょうか?

鈴木)
結局,依存状態に陥っていて、それでなかなか薬から抜け出せない。そういう人たちが増えていくので数はどんどん増えていく。そういう悪循環になっているんじゃないかと思います。

最近ではアメリカはオピオイドクライシスだけれども、日本はベンゾジアゼピン・クライシスになってしまうのではないかと心配しています。
ですから国際的にこれだけ多いということに対して、藤野先生から国際的な見地からその辺を注意して減少する方向に持っていくべきじゃないかと啓発して頂ければと思います。

藤野)
一国の使用量があまりに多い場合でも、一概にその数量だけで、良いか悪いかを判断するわけにはいきません。それぞれの国で、医師の好みや方針もあるかと思います。
ヘロインでさえもイギリスなどではまだ使用しています。ですからダメだというわけにもいかない。医師の年代にもよりますが、ヘロインを処方は可能なわけですから。従って、他の薬剤に対しても同じようなことが言えると思います。

それよりも依存を起こした人たちが増えている、という統計の方が気になります。
処方されなければ、当然依存に至らないわけですよね。
その点だけでも多すぎるのはどうかというのは推論ができますね。
そういうふうに依存を起こしている人が増えているからには、当然対策を立てるべきだと思います。

鈴木)
1961年条約ではかなり厳しくやっておられますが、1971年条約での考え方はいかがなんですか?

藤野)
国によってやり方が違いますので、一概に数量だけから使い過ぎか、そうではないかは判断し難いところはあります。ある時点で、依存を起こした患者があまりにも増えているというのであれば、明らかにどこかに問題があるわけですね。

鈴木)
INCBの役割の中に、例えばデータに基づいてそれを評価とすると言うのは役割としてあるんですか?

藤野)
どういう症例に何をどれくらい使うかという検討は、条約上WHOに委ねられています。
その時に、あまりにも使う量が少ない場合には疑問を呈することはあっても、「この症例にこれを使うべき」というような医学上の処方の判断は、INCBの権限にはありません。

鈴木)
INCBはデータを出しているけれども、それに伴ってアクションを起こすわけではないということですか?

藤野)
医療用の処方等、「医学上の」判断をすることはないです。

鈴木)
では、今このような結果を危惧しているのですが、そのような場合は各国で対応しなさいということなのでしょうか?

藤野)
それはWHOの役割になります。INCBとしては、もし横流しのケースがあったとすれば、条約の規定に基づいて介入します。
リタリンのときには、オーバー処方によって多数の横流しにつながったのではないかとの懸念があり、この場合にはINCBの介入がありました。
しかし、どの症例にどの規制薬物を使用するかどうか、どれ位の量を使用するかというと医学上の判断になります。従って、INCBが対外的に医学上の見地からの意見を発信することはありません。
また、医学・研究用に必要な量が確保されていないのではないかという疑問がある場合にも、当事国への問い合わせをします。

鈴木)
この状況に対して日本政府は、処方を減らす方向で規制をかけたわけです。それは1つのアクションで、INCBとしてそこは触れないところであって、わが国がそういうアクションを起こしてこの状況を押さえ込もうとしていると言う段階なんですね?

藤野)
INCBにそういった報告があれば、条約に基づいてアクションを起こすことにはなります。
「処方量が増えていることに何ら対応していない」という情報があれば、「何らかの措置をとっているかどうか」の問い合わせはするでしょう。
ですが、すでに措置をとったとの報告があれば、他の手段を取るべきかどうかに言及することにはならないはずです。

~Question4~
鈴木)
日本では公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターや厚労省、地方自治体が「ダメ。ゼッタイ。」教育、運動を行い、薬物乱用問題は世界において非常に良い状態にあると思いますが、先生は今後の薬物依存問題をどのようにお考えでしょうか。日本の大麻問題も含めてお話しいただければと思います。

藤野)
難しい問題ですね。

まずは日本と言う国は「ダメ。ゼッタイ。」運動に代表されるように、乱用を始めないことが肝心だという認識があるわけですね。そういう意味では啓発活動は上手くいっていると思います。
ですから、人口対比では、諸外国にくらべて、薬物を乱用している人数は非常に少ないといえます。
しかし、覚せい剤取締法違反で検挙される人は10,000人以上でずっと推移しています。
それだけいるということです。色々な統計の取り方もありますが、2%位の人が生涯で何らかの薬物を使っているという推定が正しければ、2,000,000人位いることになります。これは少ない数ではないですね。

他の国に比べれば少ないものの、興味本位で手を出すというケースは、これからも後を絶たないと思われます。
色々な国で矯正施設や刑務所等に視察に行くことがありましたが、若い人が入っている場合がほとんどです。
「なんで始めたの?」と聞くと、大抵の場合は大麻もさることながら、覚せい剤が多かったのですけれど、必ず同じ答えがふたつ帰ってきました。
一つは「薬物がこんなに危ないことを知らなかった」
もう一つは「友達に誘われたから」でした。
友達に誘われたらなかなか断れないでしょう。しかも、売る側は覚せい剤だよと言って売らないわけですし。
例えば、「元気が出る薬だよ」などと言い、最初は「ただであげる」から始まるのです。
日本の子供たちは多くの場合、薬物等に接するような環境にいないと思います。
ただ、海外の大都会に行った時などに友人に誘われると、簡単に手を出してしまうかもしれません。「薬物乱用になる」ということをきちんと理解していなければ、今後、そういうケースが増えるでしょう。ですから「ダメ。ゼッタイ。」運動や「始めない事が肝心なのだ」という教育を続けていかなければいけないと思います。

さて、大麻についてですが、もし危なくないということが検証されれば、条約上でも国内法でも、規制から外す手続きがあります。しかし、今、カナダや他の国で合法化議論が出ていますが、それは人体に安全かという話ではありません。犯罪組織が儲かっているから、それを阻止するため、国が代わりに限定販売すれば良い、という論法です。本末転倒の議論です。
そもそも、乱用すれば人体に害をもたらす薬物を、医療目的以外に国が与えてはいけないわけですよね。
犯罪組織というのは危険ですけれども、馬鹿ではありません。
今日儲からなくとも、明日儲ける手立てを必ず見つけてきます。
これは歴史が示している通りです。
だから、今の日本やスウェーデンのように、まず始めないことが肝心だと教育するのが大切です。

鈴木)
始めないことが大事だということで「ダメ。ゼッタイ。」運動が非常に成果を上げていると思います。一方で先ほども話したように必要なところで充分に使われないという問題も発生しているわけなのですが、そうした場合に適正使用に関する教育もきちんとやっていかなければいけないと私は思うのです。ですからこのような法人を立ち上げて、少しでも改善できればと思っています。

藤野)
声を大にしてやっていかなければいけないと思います。
「ダメ。ゼッタイ。」というのは、乱用はダメだよという意味ですね。

しかし法律でも医療目的の使用はこれを確保する、とされているのですから、医師が必要だと判断したら、躊躇なく使える環境が必要ですね。医療用麻薬は疼痛治療には必要不可欠な物ですから。
その医療用の薬を確保することは、国の義務になっています。
INCBも「医療用に必要な麻薬は必要な量を確保して、適正に使用してください」と毎年強調しています。

もし子供たちの質問が「乱用って何?」というところから始まるのであれば、乱用防止の活動では、そのことから解き明かしてあげなければいけないと思います。
それと同時に、例えば、がん患者の方達、疼痛治療が必要な方達には麻薬の適正使用が必要ですね。それを子供たちにも、理解してもらい、適正な使用では、依存が生じないことを正しく伝えなければいけないと思います。

~Question5~
鈴木)
最後に、私どもの法人の活動にご意見を頂ければと思います。

藤野)
必要不可欠な事をおやりになっているわけですから、マスコミに載るような形になってもらいたいですね。
一般の人達に広く知られる活動になっていってほしいと思います。
医師にも医療麻薬の適正使用についての見直しが、さらに広がってもらいたいと考えます。

そもそも1909年から国際麻薬規制の動きが始まったわけです。麻薬の横流しを防ぎ、医療用に必要な量はこれを確保するというシステムは、一世紀以上前から、進化してきたわけですから。
麻薬や向精神薬は、適正に使用すれば必要不可欠な医薬品だということをプロモートしていかなくてはいけないと思います。

鈴木勉(すずきつとむ)プロフィール
◆1979年星薬科大学大学院博士課程修了、同大学助手、講師、助教授を経て、1999年教授、2015 年特任教授・名誉教授
◆1984-86年ミネソタ大学医学部および米国国立薬物乱用研究所研究員
◆2002年WHO薬物依存専門委員会委員、2013年厚労省薬事・食品衛生審議会指定薬物部会長、2015年麻薬・覚せい剤乱用防止センター理事等
◆日本薬理学会理事、日本アルコール薬物医学会理事長、日本緩和医療薬学会理事長等歴任
現職:星薬科大学特任教授・名誉教授