第13回 特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(J-DO/ジェイドゥ)理事長 鍋島俊隆 先生

対談担当者:鈴木 勉(一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議代表理事)

鍋島俊隆先生のご略歴

特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(略称 : J-DO/ジェイドゥ) 理事長 : 鍋島俊隆

1968年3月岐阜薬科大学製薬学科卒業
1973年3月大阪大学大学院薬学研究科博士課程単位取得後中退
1977年12月東北大学にて博士号修得(薬学)
職歴
1973年 4月名城大学薬学部 助手
1978年11月~1981年5月米国ミシシッピー州立大学メディカルセンター 客員助教授
1982年 4月名城大学薬学部 講師
1984年 4月名城大学薬学部 助教授
1990年 1月名古屋大学大学院医学系研究科臨床情報学講座医療薬学分野・医学部附属病院薬剤部 教授・部長(併任)
2006年 1月特定非営利活動法人医薬品適正使用推進機構理事長
2007年 3月名古屋大学を定年退職
2007年 4月より名城大学大学院薬学研究科 薬品作用学研究室 教授
2012年 3月名城大学を定年退職
2012年 4月より名城大学薬学部寄附講座 地域医療薬局学講座特任教授
2015年 3月より名城大学薬学部 特任教授
2015年12月より藤田医科大学大学院保健学研究科 客員教授
現在の主な研究分野:神経精神薬理学:精神疾患動物モデルの作成と新薬開発への応用、薬物依存、医薬品の適正使用についての研究

~Question1~
鈴木)
本日はお時間を頂きまして誠に有難うございます。まず初めに、平成18年1月に先生が立ち上げられて以来、15年活発に活動されている特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構 (J-DO)についてご紹介いただけますでしょうか?

鍋島)
私は名城大学で薬理学と言って、薬の作用についての研究をしていました。ゴールは新しい薬を創ると言うことなので動物実験等をやっていました。その後、名古屋大学病院で臨床の先生方と協力して仕事も出来ました。定年近くになり、東京でワインを飲みながら、弟子の小松君とその上司だった林さんと話をしていた時に「定年後をどうされますか?」と聞かれました。「研究は出来なくなるので、それならば薬の寿命を伸ばしたい」と言ったんです。

何故かと言うと120年位前にドイツのバイエル社で開発されたアスピリンと言う薬があるのですけれども、最初は解熱鎮痛薬として使われていたのですが、120年の間に色々な患者さんが使用して、脳梗塞や心筋梗塞の様な病気にも効くのではないかということが解ってきたのです。小児用バファリンの用量がこれらの病気に使われるようになりました。最近では大腸がんにも効くのではないかと研究が進められています。

120年前に開発された薬ですから、その間に何億人と言う方が飲んでいて効能や副作用の事がよく解っているので、安全性にあまり問題がない事と開発費がかからないので、非常に低価格で提供できると言うこともあり、薬の寿命を伸ばす事は非常に意味があるのではないかと思いました。
「薬の寿命伸ばすためにはどうしたら良いのか?」と言うと、患者さんが薬の副作用の第一発見者になりますから、患者さんに副作用を早くわかるように、またどのように薬を使ったら良いのかという事を理解してもらえれば、「薬と安全・安心に付き合える」と言う事で始めました。
NPOを始める前に、名古屋大学病院に学位を取りに研究生として来ていた舞鶴市民病院の丸山先生が医薬品の適正使用を進めるために「薬剤師外来」を始めようとしていました。その頃はコンプライアンスと言っていましたが、「薬の事をきちんと理解し、薬を指示通りに患者さんが服用する」ように指導する事をやっていました。

1997年に病院薬剤師会会長の斉藤先生から私のところに連絡があり、「厚労省で外国に向けて使う予算があるのだけれど、どのように使ったら良いだろうか」と連絡がありました。その頃、アメリカでは臨床薬学がすでに20年以上の歴史があり、病棟で薬剤師が活躍していました。この臨床薬学を日本に導入できないかという事で、アメリカの臨床現場に日本の病院薬剤師を派遣して半年間研修を受けさせるという事を行ったらどうかと提案して実現しました。さらに、
アメリカの臨床薬学のスペシャリストに日本に2週間来て頂き、日本を四つのエリアに分け、各拠点病院のベッドサイドで直接指導してもらうと言う厚労省のプロジェクトを1998年より私が名古屋大学を定年になる2007年まで担当しました。その折に、アメリカでは薬剤師外来をやっていまして、血圧を薬剤師が測って「血圧の薬の効力はどうなのか」「ワーファリンで血液凝固が適正にコントロール出来ているかどうか」などの事を薬剤師がやっていたのです。

日本の薬剤師が研修に行き、そのうちの1人、私の所に居た山村先生が2000年にワーファリンの「薬剤師外来」を始めてくれました。それは大学病院では初めての事でした。その時に考えたのがワーファリンですと、添付文書に「出血傾向があるので注意」と書いてあるのですが、患者さんには出血傾向と言っても解りにくいので「鼻くそをほじると鼻血が出やすくなる」とか「歯ブラシで歯磨きをしていたら血が出やすくなる」とか「腕や足などをぶつけるとあざが出来やすくなる」など患者さんに分かりやすい言葉で副作用を説明していく事にしました。パンフレットを渡して「このような症状が出たらチェックして下さい。その時は薬剤師外来へ来てください。」と言うような事を始めました。
そういうことが前提になって、患者さんとコミュニケーションが上手く取れない薬剤師が居る。薬剤師と上手くコミュニケーションが取れない患者さんもいることが分かりました。そこでNPOを立ち上げて薬剤師や患者さんだけではなく、一般の人にも「薬と安全に安心して付き合う」のにはどうしたらよいか、広く知って頂ける様にしたらどうだろう!」と言うことでJ-DOを始めました。

鈴木)
ではJ-DOは患者さんだけではなく、一般の方々にも適応しようという事でスタートされたんですね!

~Question2~
鈴木)
J-DOは「くすりを安全に上手に使うことにより、人々が21世紀を健康に幸せに暮らしていくための支援をしていきます。」をスローガンに活動されていますが、これまでの思い出でJ-DOを立ち上げて良かったなあと思われることをご紹介いただければと思います。

鍋島)
先程の「薬剤師外来」は、今でこそ、全国どこの病院でもやるのが普通になりました。そういう点では成功例だと思います。

J-DOの方では、私たちは最初にPTAの関連の方々に働きかけて出前実験授業をやらせて頂いたり、薬剤師会と一緒に活動したりしました。大学の卒業生を介してその母校でやらせて頂いたこともあります。

今の学校の先生は多忙なので、新しい事を校長先生にお願いに行っても、校長先生がやりたくても現場の先生方ができないと言うケースが多かったですね。

ところが、名古屋大学の定年後に名城大学に9年間お世話になっていた時に、名古屋大学の時から一緒にやってくれていた名城大学の野田先生や間宮先生などが積極的にやってくれるようになりました。また両先生の指導で、名城大学の卒業生で一宮市の学校薬剤師の濱崎先生が担当の小学校でJ-DOと共同で、継続的に毎年この活動をやるようになりました。そういうことで、大学側も理解して下さり、名城大学の学園祭にもJ-DOのブースを作って頂いて、名城大学で大学として初めてプロジェクトの一環になっていきました。

その後、J-DO理事の千葉大学佐藤先生の肝いりで、千葉大学と城西国際大学、千葉科学大学の3大学が文部科学省の予算をとりまして、地域に貢献できる薬剤師を育成するプロジェクトを8年前に始めました。J-DOのやり方が基本になって千葉大学の学生にも教育に行きました。5年間のプロジェクトだったのですが、今でもこの三大学共通のプロジェクトとして、J-DOも参画して、継続されています。三つ目のプロジェクトは、富山大学の新田先生のラボが毎年大学付属小学校でJ-DOのプロジェクトを開催してくださる様になった事です。今のところ3大学のプロジェクトですが、2019年に山口東京理科大学の和田先生がこの活動を始めて下さると言う事になりました。(注:2019年にはすでに3回開催されている)

さらに、薬剤師会では、先程の浜崎先生が一宮市薬剤師会の会長となってから、J-DOと共催で毎年2回やって下さるようになりました。

また、医療薬学会で羽咋市の開局薬剤師の笠原先生が「羽咋市でも開催したい」と言われ、羽咋市までJ-DO会員が出向いて、薬剤師向けの研修会を開いた後に、羽咋市と石川県薬剤師会が共同で同じようなプロジェクトを継続してやってもらえるようになりました。このような事が一番良かった事だと思います。

年単位で活動をやっていかないと、薬剤師のミッションにならないと思っています。今では他の団体も自分たちのプロジェクトとしてやって下さるようになったのでありがたいと思っています。

私たちの方法を学ぶために、羽咋市の先生方が参加された研修会の時に、どの薬剤師でも解るような、DVDを作り、希望者に配布し、どこでも活動が出来るようにしています。

~Question3~
鈴木)
J-DOの医薬品適正使用を推進する活動で困難なこともあったかと思いますが、可能な範囲で結構ですのでご紹介頂ければと思います。

鍋島)
最初は私の思いつきの様な感じでスタートしたので、会員になって頂く皆さんが、私に忖度して会費を払う人が多いのではないか?と思い、会費を頂く事に非常に抵抗がありました。2006年頃には現役だったので色々な製薬会社から相談を受けたりしていました。その中で、「薬剤師はコミユニケーション力が低く、自分から積極的に話しかけると言う事が無いのでコミュニケーション力を上げる為にどうしたら良いのか」と言うことで講習会を開いたり、「薬の事を患者さんのわかる言葉で伝えるにはどうしたら良いだろう」という様な事を相談され、寄付金を入れて頂いたりしていました。コンサルタントや講習会をすると言うことで寄付をして頂いていたのですね。そういう様な事で資金集めをしていましたので、多忙で大変でした。私は今76歳なのですが、現役でないので、そういう依頼も少なくなり、寄付が一気に減り、また団体会費を頂いている団体が数社になってしまいました。今のところは収支バランスが取れていますので問題ありませんが、そこがやはり事業を継続していく上で一番不安なところですね。

それとこちらが出前授業などの事業をやりたくても受け皿が無いと言うことがやはり最初は一番大変でした。先ほども言いましたが、大学での教え子の卒業した小学校にお願いしたりなど…そこは大変苦労しました。最近は継続的にやってくださる小学校ができたり、校長先生が違う小学校に異動されても、継続してくださったり、転校先にも呼んでいただいたりと、年10回以上は出来る様になりました。資金集めと受け皿が一番苦労した事ですね。

~Question4~
鈴木)
J-DOは設立15周年を迎えられますが、これまでの活動を振り返り、今後の医薬品適正使用推進に関する展望をお話し頂ければと思います。

鍋島)
私が一番目的としていているのは、学校薬剤師が各担当の学校できちんと教育をしていくという事で、それがゴールだと考えています。先日、毎年やっている小学校に行きました。名古屋市学校薬剤師の定年は80歳ですが、今までやっていた薬剤師さんが定年になり、新しい薬剤師さんが担当になったのですが、「とても大切な活動なので学校薬剤師のミッションにしたい」と言っていて頂きました。
その先生と協力して一宮市薬剤師会の成功例の様にしたいと思います。

学校薬剤師は日本全国にとても多いので、学校薬剤師会をターゲットにして資材などを持ち込んでやりたいなと今思っています。また教え子の学生が卒業して薬剤師になったら、それぞれの所でやってくれればと期待しています。J-DO開設から15年と言うのは長い様で短い。最初の学生が卒業してから40歳位になっているのですが、なかなか「始めます」と言う人が居ないので、やはり学校薬剤師会をターゲットにしていくと展望が開けるのかなと思っています。

また、開局の薬剤師は地域医療と言う意味では、市民と最初に接するところに位置していますので、薬剤師外来的な仕事がやり易くなっていると思います。昔は血圧も測ることができない、採血もできない、色々な事ができませんでした。今ではバリアが溶けてきたので開局薬剤師ができることが広がってきていると思います。そういった意味では、薬剤師外来を開局にも広げると言う事をやってくれている山村会員も居ますので、それが広がっていけば一番良いのではないかと思います。

鈴木)
先生方が今まで15年かけて構築されてきた方法を学校薬剤師会の方々が学び会得されても、社会で発揮できる場を作る事がなかなか難しい、また上の人の理解があって推進してくれれば良いのですが、そういう事もなかなか難しい。ある意味では学校薬剤師会がそういう道を作ってその中に学んだ人が入って活動すると言う事はJ-DOの方々であれば出来ますので、発展的に行きましたね。コミュニケーションの面からこのような活動やっていくのも非常に良いことだと思うのですが、J-DOでは講習会とかそういったものは取り組んでおられるのですか?

鍋島)
名城大学で地域医療薬局学寄附講座を担当した時には、月に一回、開局薬剤師を集めてそういう教育をしていました。それからスモールグループディスカッションをやってきました。これらをビデオ化して、E-learningのテキストとして使われています。藤田医科大学に移ってからはなかなか出来ていませんが、藤田医科大学には地域連携部門があります。文科省は抵抗しましたが、厚労省の後押しで、大学では初めて地域医療と繋がった部門を設立しました。そこを拠点にしてやれればなと思っています。

鈴木)
それに関しては学校薬剤師会や本来だったら薬剤師会が加わって同じようにやってくれれば非常に発展的になりますよね。

鍋島)
できればそのプロジェクトに豊明市の薬剤師会が協力してくれればと思うのですが

鈴木)
非常に理想的に出来ている事を学会等で発表されていると思うのですが、関連学会の皆さんに認知して頂ければどんどん広がっていくのではないかと思うんですが。

鍋島)
そういう点では名城大学の野田先生がしっかりデータをとってくれています。継続的に薬学雑誌や医療薬学会誌に論文を出してくれています。これを見習えば、開局薬剤師でも論文につながる仕事が出来て、学位につながったりしますよね。

~Question5~
鈴木)
私どもの一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議 (CPP) は「痛みを知って、痛みを無くそう!」と「眠りを知って、快適な眠りを!」をスローガンに主に鎮痛薬や睡眠薬の適正使用と乱用防止の啓発活動を行なっています。法人運営や活動にご意見を頂ければと思います。更に、J-DOとCPPが共同で取り組むべき活動や夢をお話し頂ければと思います。

鍋島)
J-DOの理事でもある鈴木先生が一般社団法人を立ち上げられ「痛みと眠り」にフォーカスを絞って、より解りやすい仕組みで発信していくと言うことで順調に展開されていると思います。J-DOはどちらかと言うと「医薬品の適正使用」をやっていますので名古屋方面にお越し頂き、この2つにフォーカスを絞って合同の講習会や市民公開講座などを開催できたらいいなと思います。そして更に、合同で東京でも一緒にやったりできたら面白いかなと思います。ですからホームページ等でも情報を共有しながら活動して行けたらいいなと思います。

鈴木勉(すずきつとむ)プロフィール
◆1979年星薬科大学大学院博士課程修了、同大学助手、講師、助教授を経て、1999年教授、2015 年特任教授・名誉教授
◆1984-86年ミネソタ大学医学部および米国国立薬物乱用研究所研究員
◆2002年WHO薬物依存専門委員会委員、2013年厚労省薬事・食品衛生審議会指定薬物部会長、2015年麻薬・覚せい剤乱用防止センター理事等
◆日本薬理学会理事、日本アルコール薬物医学会理事長、日本緩和医療薬学会理事長等歴任
現職:星薬科大学特任教授・名誉教授