今回新たに「Real Voice」というコーナーを開設しました。
このコーナーではがん患者さん、がんを経験されたがんサバイバーの方、ご家族、医療に携わっておられる方などに本音をお話し頂くコーナーです。
第1回は薬剤師とがんサバイバーの本音トーク!
「薬剤師が聞きたいこと、言いにくいこと」その時の「患者の気持ち」
川井朋子
病院薬剤師と保険薬局薬剤師(在宅医療にも関わっています)として、これまで、多くのがん患者さんに寄り添ってきました。しかし、私達薬剤師の中でも、正直「がん患者さん」というだけで、必要以上に言葉を選んでしまうことがあります。今回は、がん患者さんが、告知から入院、抗がん剤治療と進む中で、どのような心境でいるのか、言われたくない言葉があるのか、がんサバイバーであるすずきゆみさんに、率直なお話を伺っていきたいと思います。
すずきゆみ
32歳の時、卵巣がんで子宮全摘、両側の卵巣卵管摘出、大網切除、リンパ節郭清術を行い、術後TC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法6クールを行いました。今回は薬剤師の川井さんに患者の気持ちをぶつけてみたいと思います。
告知から入院・治療
川井: まず、がんと告知されてから、入院、抗がん剤治療までの流れをお話頂けますか?
すずき: 告知の時は皆さん「がん」になるとよく言いますが「何で自分が…」まさにこの言葉がよぎりました。
頭の中は真っ白で、周りの景色の色はなくなっていました。
告知から3日で入院し1週間後には手術でした。
待つ時間が長いと悪いことばかり考えてしまうので、連絡や準備などでバタバタでしたが、あっという間の入院、手術で良かったと思っています。
自分は卵巣がんだったので、手術をしてみないと、Stageがわからないと言われ、術後に抗がん剤治療をするのしないのかもわからない状況でした。
抗がん剤治療
川井:すずきさんは、手術を行い、結果、抗がん剤治療も行ったのですか?
すずき:はい。行いました。一旦退院して、再度、抗がん剤のために入院しました。
川井: 入院での生活を振り返り、如何でしたか?
すずき: 入院生活は貴重な経験でした。初めてのことばかりでしたし、色々なことを考えたり、何が大切なのかを考え直すことができた。今振り返ると良い機会・経験であったと思っています。
幸い自分は再発はしていません。無事に手術と抗がん剤治療を終えましたが、長い間、心の病気を抱えてしまいました。今でもどこかが痛くなると「再発」の文字が頭をよぎります。
がん患者は治療を終えてもずっとがん患者なのだなと実感することがあります。
でも、徐々に薄れていくというか、思い出さない期間が長くなっていくというか…。もちろん忘れることはありませんけど。
川井: ありがとうございます。すずきさんの場合は、入院して抗がん剤治療をされていますが、昨今、外来化学療法もかなり行われています。外来化学療法の場合は、治療開始までの期間がさらに短くなると思われますし、診察、抗がん剤の点滴が終われば帰宅し、医療スタッフのいない自宅で副作用を経験するわけです。外来の場合は、特に限られた時間の中で、必要なことを伝えようと、各医療スタッフがお話することになります。外来化学療法について、お話されたいことはありますか?
すずき: 外来化学療法は特に医療従事者と患者が接する時間は短くなります。
ご家族などが自宅に居ていつも見ていてもらえる環境なら良いですが、一人になる時間がある患者さんはとても不安だと思うのです。
吐き気や痛みもそうですが、不安を少なくしてもらいたいと思うのではないでしょうか。
自分はマンスリーの抗がん剤治療でしたが、一時帰宅の時でも不安はありました。
副作用のことだけでなく、些細なことでも我慢しないで病院に来てよいことや、困った時には電話などで相談できるなど、患者が医療機関と常につながっている、誰かに相談できるということは不安を取り除く大きな支えになると思います。
「がんばって」と「がんばったね」
川井: 話は少し変わりますが、「がんばって」と言わない方がよい、と授業で習ったことがあります。
また、抗がん剤のお薬説明書を作成する際、「抗がん剤」という言葉を使わず、「治療薬」と表現していたこともありました。個々で捉え方は違うと思いますが、すずきさんの考えをお聞かせ頂けますか?
すずき: そうですね…頑張りようがないですから。
がん患者は告知を受けた時点から精神的に物凄く頑張っています。
でも頑張り方がわからないんです。
そんな時に「がんばって」と言われても困ってしまいます。
でも、抗がん剤を投与した後や、食事を全部食べた時、白血球が上がった時など何かがクリアできた時の「がんばったね!」という言葉は、嬉しかったですよ!
「がんばって」ではなく「がんばったね」はとても良い言葉だと思います。
気にし過ぎてギクシャクする位なら深く考えない方が自然なのかもしれません。
「抗がん剤」と「治療薬」はがんの告知を受けていれば抗がん剤治療をすることはわかっているので、「抗がん剤」で問題ないと思います。しかし、がんの告知を受けていない方には当然「抗がん剤」とは言えないので、患者のケースによると思います。告知されて治療を受けている患者は「抗がん剤」と言う言葉に対して薬剤師の方たちが思っているほど気にしていないかもしれません。
川井: すずきさんが、医療スタッフや周囲の方の言葉は、不快に感じた言葉は、ありましたか?
すずき: 自分は性格上、何を言われても聞かれても大丈夫な方なのですが、長い闘病生活の中で「これは嫌だなぁ」とか「よくわからないなぁ」と思うことは沢山ありましたよ!
がんのStageや年齢、家族構成などが違えば「同じ言葉」でも「違う言葉」に変換されてしまうのだと思います。
患者は「がんになってしまった」「死ぬのかな」「どうしよう」等、不安でいっぱいです。そんな時に「がん患者」だからと腫れ物に触るような態度をとられれば、ナーバスで過敏になっている患者には「言葉」ではなく、必要以上に言葉を選んでいる医療スタッフの「雰囲気」が伝わってしまうのかもしれません。最初にできたその「雰囲気」要は第一印象ですね。それはなかなか取り除くことは難しい…。「がん患者」だからと身構える必要はないと私は思います。
「がん患者」なのだから見逃して~って思うことは沢山ありましたけど!
川井: 「見逃して~」と言うと?例えばどんな事があったのですか?
宅配のピザを頼んでしまったり、冬場は焼き芋が食べたくて、消灯時間が過ぎているのにパジャマのまま焼き芋の車を追いかけたり。
そんな時には当然注意されましたが、皆があまりにも何回もやるので「見逃す」とういうよりは「もうしょうがないなぁ」だったのかもしれません。でもそんな些細な事でも患者にしてみれば大冒険です。その時のピザや焼き芋の味は忘れられません。
川井: 私達は、抗がん剤だったり、痛み止めだったり、薬の説明をすることが仕事の1つなので、いつ頃吐き気が出ますよ、とか副作用を説明します。
当然のことですが、知識として持っているだけで、全く経験していないことなんです。だから、質問されたらどうしよう、って思ってしまうことがあります。
すずき: 薬剤師も看護師の方も、これまで多くの患者さんに会っているわけですね。
当然色々なケースを見てきてらっしゃいます。
様々な経験から近い症例や状況を当てはめて「こんな患者さんがいて、その時こうしたら良かったよ」とか…「この抗がん剤を使用して、この吐き気止めを使って良く効いた患者さん居たよ」など、実際の経験を活かした例えを挙げて説明してもらえると「あぁそうなんだ」「じゃあ使ってみようかな」って素直に受け入れやすいと思います。
抗がん剤中の食事情
川井: 私が担当した方の中にも、抗がん剤の吐き気で、ご飯が食べられなくなった方がいらっしゃいましたが、意外とカップラーメンが食べやすいこともあるよ、なんてアドバイスしたのを覚えています。
すずき: そうですね。意外と濃い味が食べられたりしますよね。
口内炎などで痛みのある患者の方には当てはまりませんが、ジャンクフードが食べたくなったり!あとレトルトカレーは必需品でした!
白いご飯は食べられなくても、酢飯は食べられたり!
また、食事以外の行動に対しても、治療中だからあれもダメこれもダメではなく、こうすればどこかに行ってもいいよ! これならやってみていいよ!
というような前向きなアドバイスが嬉しかったです。
自分も年末にどうしても外出したくて許可をもらい、晴れて外出したのですが、ノロウイルスになり病院にUターンしたのを思い出します。でも自分の希望で外出したので、仕方がないですよね!
病院に居た病友たちからは心配でなく大爆笑されてしまいました。もちろん自分でも笑ってしまいましたけど。
真剣に心配してくれたのは医師や看護師の方たちでした。ワガママで外出してノロになった自分を、一生懸命、治療してくれた医療従事者の方たちに、感謝の気持ちでいっぱいだったエピソードです。
まだまだお話ししたいことはありますが、それはまた次回に!
本当の気持ち
川井: 結局、経験しないと、本当の気持ちって分からないですよね?
すずき: そのとおりだと思います。
患者同士でもわからないことがたくさんあります。
同じ病気になったという不思議な連帯感はありますが、患部・ステージ・年齢・環境等が違えば、はっきり言ってわかりません。
薬剤師の方には薬のエキスパートとして、何よりも頼れる人として寄り添って欲しいと思います。「完全に分かって欲しい!」なんて思っているわけではなく、話を聞いて欲しいし、出口を一緒に探してほしい。
逆に体調が悪い時にあれこれ言われても『分かったようなこと言わないで!』って心の中では思っていたり…
これが、本当の気持ちですね。
川井: 本日は、貴重なお話をありがとうございました。
今回は「薬剤師が聞きたいこと、言いにくいこと」その時の「患者の気持ち」をお聞きしました。
お辛い経験を振り返る、ということも、大変なことだと思います。是非、また面白いエピソードも踏まえて聞かせて下さい。
次回は入院中・治療中のことを中心にお聞きしていきます。
◎外来化学療法
入院せず、通院(外来)で、点滴の抗がん剤を受ける治療をうけること。副作用対策が確立したり、副作用の少ない抗がん剤や点滴時間の短い抗がん剤の開発により、外来で行うことが可能となった。日常生活を送りながら治療ができる反面、副作用が自宅で出現するため、家族の助けが必要なこともある。
このコーナーで取り上げて欲しい内容などありましたら、info@cppjp.or.jpまでご連絡ください。